ラグビー王国・福岡で見た 全国リーグとなった「トップリーグ」の開幕 | ラグビージャパン365

ラグビー王国・福岡で見た 全国リーグとなった「トップリーグ」の開幕

2012/08/22

文●斉藤健仁


かつて東日本、関西、西日本の各地域に分かれて行われていた社会人リーグ。それらが統一され、2003-04シーズンから12チーム(現在は14チーム)で発足したのがジャパンラグビートップリーグ(トップリーグ)だった。

2003年9月13日に、東京・国立競技場にてサントリーサンゴリアスと神戸製鋼コベルコスティーラーズの開幕戦が華々しく催され、翌14日には福岡・博多の森球技場(現レベルファイブスタジアム)で当時ボムズ(現ブルース)という名だった福岡サニックスと、現在はトップイーストに甘んじているクボタスピアーズとの一戦が行われた。

今シーズンで10年目を迎え、8月31日に開幕するトップリーグ。その元年に、日本の「ラグビー王国」で行われた開幕戦のレポートをお届けする。

初出:「スポルティーバ」(集英社) 2003年11月号


ラグビー王国・福岡でも行なわれた
トップリーグ開幕戦の様々な風景に、
日本ラグビー界の現状と未来の姿を
垣間見ることができた。


トップリーグの中で個性が光るサニックス(写真は10-11シーズン)

トップリーグの中で個性が光るサニックス(写真は10-11シーズン)

 

「福岡」に愛されるチームを目指して

2003年9月13日、国立競技場に35000人の観客を集めて開幕したトップリーグ。その翌日、福岡をホームとする福岡サニックスボムズ(当時=現「福岡サニックスブルース)の開幕戦、対クボタスピアーズ戦を見るために博多の森球技場へ足を運んだ。サニックスは、企業色がまだまだ濃いトップリーグの中、唯一 “ 福岡 ” の2文字を冠して、地域密着したクラブを目指しているチームである。

試合開始4時間前にスタジアムを訪れると、すでにたくさんの人影が……。こんな時間にまさか観客が?と思って話を聞けば、前座で行なわれる福岡の中学生選抜東西対抗試合の選手や関係者だった。

「中学生の練習や合宿で、サニックスの選手たちが、ホントよく面倒を見てくれるんです」

柏原中学ラグビー部監督・宮田耕太郎さんが言うように、サニックスは地元ラグビー指導者にはなかなか評判が良い。ラグビースクールを運営したり、宗像市に、天然芝のラグビー場が2面もあるグローバルアリーナを建設し、ユース世代の大会を開いたりと、チームの強化だけでなく地域との交流にも積極的なようだ。

結局、一般の観客が多くなってきたのは試合開始2時間ほど前。入場口では、チームキャラクターである

『Bombee(ボムビー)』くんや、ベンチ入りしなかった選手たちが出迎えて、『TRYTIME!BOMBS!』の文字が入った応援シューター(バルーン式応援棒)を手渡している。

小学5年生の息子を連れて応援にきていた安部誠一さん(42)は、「今日はもちろんサニックスの応援。ラグビースクールに入っている息子も将来、サニックスでプレイするって言ってるんですよ!」。

福岡は、サッカーの静岡や埼玉と同じように、大阪、兵庫と並ぶラグビー王国。戦後、黄全期を迎えた八幡製鐵が福岡にあったことの影響で、ラグピースクールの数は全国2位。冬の “ 花園 ” でもここ2年連続で東福岡高校が準優勝している。

「サニックスは九州電力やコカ・コーラウェストジャパンに比べたら、まだまだ福岡のチームじゃないよ。あと2~3年経てば追いつくかな」

オールドファン3人組で観戦にきた熊谷靖彦さん(50)は、そう語る。

それもそのはず、サニックスは創部10年目の若いチームなのだ。ラグビー部ができてからの活躍は目覚ましく、3年で西日本社会人Aリーグに参加し、昨年までは4連覇を達成。九州から唯一トップリーグ参入を決めた。しかし全国社会人大会ではベスト8が過去最高と、まだまだこれからのチームだ。

「今日は生徒を勉強させにきました。サニックスは企業のバックアップが凄いから、選手も変わるでしょう」

生徒を引率していた、城東高校ラグビー部監督・廣田政信さん(59)。

部活を終えて観戦に来た東福岡高校ラグビー部1年生の宮本賢二くん(15)は、

「大学は東京に行って、将来はサニックスに入りたいです。俺がサニックスを変えてみせます(笑)」

そこは、やはりラグビー王国・福岡、親子連れや、日焼けした、いかにもラグビー部員といった風貌の中高生の来場が目に付く。全国レベルの試合で、サニックスの活躍を期待してスタジアムに足を運んでいることがその一言一言から実感できる。

今日の開幕戦が、『福岡』サニックスボムズという名前での初の公式戦。今後、本当に地域に密着し、愛されるチームになれるかどうかは、やはりトップリーグでの活躍次第だ。

 

「企業」と「プロ」の狭間で揺れる

試合開始30分前、開幕戦のセレモニーが始まった。地元の精華女子高校マーチングバンドによる演奏、そして地元の中学生が大きなラガーシャツと各チームの旗を持っての入場行進と手作り感タップリ。

「会員数は約4千人ですが、会社関係者以外は1割未満。高校ラグビーは強いけど、サニックスはまだまだ……。だから、トップリーグが勝負なんですよ。勉強のため、Jリーグの鹿島アントラーズのファンクラブ担当者にも会ってきました」

と語ってくれたのは7月にできたばかりのファンクラブ担当者の北野義信(32)さん。野球でいう応援団、サッカーでいうサポーターのような集団はまだまだこれからのようだ。

そんな中、ぽっかりと空いていたメインスタンド右側に、白や青のワイシャツを着た集団が突如現われる。

「トップリーグ?よくわからないけど、うちの会社はラグビーがそこそこ強いのは知ってるよ。今日が『開幕』らしいから来たんだよ」

サニックスの社員が総出で応援にかけつけたのだ。白アリ駆除や家屋補強が中心の会社なので、当然日曜日も営業。そのため、仕事帰りにスタジアムに立ち寄ったようだ。

「チームの半分以上がプロ契約。仕事とラグビーを両立する部員が減り、会社との交流も少なくなってきた。時代の流れなんでしょうが……」

と語るのは昨年までFLとして活躍していた前出の北野さんだ。

メインスタンド最前列で観戦していたラグビー部部長の前田好幸常務(53)は、

「今、日本ラグビー界は過渡期です。今シーズンが終われば、方向性が見えてくるでしょう。チームは地域密着型を目指していますが、私どもの会社は今、日本全国にあります。だからチームが強くなって、企業と合わせて報道されたり、記事になったりして有名になるのは嬉しいです」

サニックスは、まだ『地域』のチームでもなければ完全な『プロ』のチームでもない。変わりつつあるが、他のチーム同様に、まだ『企業』主導であることを再認識させられた。

そんな思いを巡らせていると笛が鳴り響く。6200人の観衆の中、ついに、開幕戦のキックオフ。相手のクボタはFWが強い昨年の東日本社会人リーグ4位の強豪。そのため、サニックスは序盤から苦戦を強いられるが、ディフェンスを頑張り、流れが相手に行きそうなところで粘って、前半は6対10。地元ファンは、PG2本だけで、ミスが多く攻撃の回数が少ないことに少々不満気味だ。チーム名こそ変わっても、ラグビー自体はこれまで通り、強いのは九州の中だけの話で終わってしまうのか。

 

スタジアム全体が『ボムズ』になった

ラグビーでは珍しいハーフタイムショーも福岡大学のチアリーディングと地元一色。しかし、停滞ムードが漂ったまま後半が始まった。

「シロアリ駆除ならサニックス!」と訳のわからない声援(?)を送っていたのは、選手たちにもらった、昨年までのサニックスのジャージーを着てバックスタンド上段で応援していた福岡高校ラグビー部員たち。

その声が聞こえたのか、後半、PGを1本返して迎えた15分。昨年までの主将FL森拓郎選手が相手キックをチャージ。中央にトライを挙げ、ついに逆転に成功!しかし、その後25分にクボタも1トライ返して1点差に。勝負はどちらに転ぶのか。

そんな時、どこからとなく自然発生的に『ボムズ、チャチャチャ!ボムズ、チャチャチャ!』という応援が生まれ、それが次第にスタジアム中を埋め尽くす。同時に、ホームの声援を背にクボタの攻撃をはね返すサニックスフィフティーン。

そして40分、途中出場のSOデミアン・カラウナ選手が右スミに決勝トライ!観客は興奮し、スタンディングオベーション!この瞬間スタジアムがひとつになりノーサイドの笛が。21対15、ボムズ勝利!

「バンザーイ!バンザーイ!」

挨拶に来た選手たちと興奮しきった観客が一緒になって大声を上げる。「ボムズコール、心地よかった!福岡は練習しやすく、社風もいい」

ワールドから移籍し、今年から主将となったLOの遠藤哲主将(31)。

ホーム開幕戦で勝利できてホッとしたという熊本出身の宮浦成敏監督(38)は、力強くこう語った。

「サニックスがレベルアップすればジャパンも強くなる。Jリーグと同じようにトップリーグもそうなってほしい。ラグビーのプロ化は世界の流れ。ラグビーを仕事にして、九州のチームとして上を目指します」

戻ってきた選手たちを大きな拍手で迎える人、サインを求める人もいれば、知り合いの選手に手を振る人、記念写真を撮る人もいた。

「次も絶対見にきますよ!」

すっかりラグビーに魅了されてしまって興奮気味のおばちゃん。

「中心になって盛り上げてくれる人がいればもっといいですね」

『TRY!』と書かれた手作りのプラカードを唯一持っていた女性は笑顔で語ってくれた。

「やるからには日本一」とラグビーに力を入れる宗政伸一社長(54)がグラウンドに降りて選手と抱き合う。福岡の夜空に、『サニックス』ではなく『ボムズ』コールが響いた。

 

斉藤健仁
スポーツライター。1975年4月27日生まれ、千葉県柏市育ち。印刷会社の営業を経て独立。サッカーやラグビー等フットボールを中心に執筆する。現在はタグラグビーを少しプレー。過去にトップリーグ2チームのWEBサイトの執筆を担当するなどトップリーグ、日本代表を中心に取材。プロフィールページへ


 

記事検索

バックナンバー

メールアドレス
パスワード
ページのトップへ